2025/05/13

5/13 雑記

 日記を書くということ。ある日の出来事を、その日付のもとに記録すること。そのいいところも、よくないところもあると思う。  一日の出来事のなかには、日記にしか書けない事柄がたくさんある。日記に書かなければ、もう書きとめられることはない事柄を、日記は言葉で留め置くことができる。 

 一方で、日記には書けない事柄もある。時間が経って、多くの出来事が消え失せたあとで、その日をどうにか取り戻そうと願うように記される言葉は、日記とは別のかたちで出来事を記録する。そして小説は、そういう言葉で書かれるものだと思う。(滝口悠生)

滝口悠生『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』の「あとがき 2019年11月13日(水)」がとても良かった。やがて忘れる過程の途中。記憶の脆さ、時流の儚さをはらんだ秀逸な題名だと思う。

2025/05/12

5/12 店日誌

5月12日、月曜日。歩くのは楽しい。郵便局でレコードの発送、スーパーで買い物をしたのち、友人がはじめた〈つるばみコーヒー〉に顔を出したり、たっぷり30分。水たまりを避けつつ歩く。せまい道でも無遠慮にビュンと通りすぎる車がいれば、そろっと走ってくれる人もいる。いろんな人がいるもんだな〜とぼんやり考えながら、いったん帰宅。グレープフルーツジュースを飲んで、店まで歩く。雨があがって空気が澄んでる。2匹の猫が同じポーズで丸まってる。筑波大学にはたくさんの人がいた。

今日は通常営業。お暇があればご来店ください。

2025/05/11

5/11 店日誌

5月11日、日曜日。ラバーズロック関連のレコードと一緒に仕入れた『Bugs On The Wire』に針を降ろす。イギリスのBBCで1984年に始まったラジオ番組「On The Wire」40周年に際しての再発盤(オリジナルは1987年リリース)。司会者のスティーヴ・ベイカーによる選曲はずばり、ポスト・パンク。冒頭のダブ・シンジケートこそニュールーツ的だけれど、以降は鋭いギター・リフとベース・ライン、扇状的なヴォーカル曲が多くなる。リー・ペリーの曲もいわゆるレゲエじゃなく、ニューウェイブ風味である。

ペリーに続く2曲、ザ・リバーサイド・トリオとロンダなるバンドはアメリカン・ルーツ・ミュージックみたいで、これはこれでカッコいい。面が変わると、レゲエ~パンク的重力を拒否するかのような鍵盤重視の楽曲が続いていく。80年代っぽいリズム、手ごたえを得づらいヴォーカルが続くのだが、嫌じゃない。むしろ、興味がわくのはなぜだろうか。

ことに英国におけるダブ解釈は、ポスト・パンクの母国として、その影響が多層的に、越境的に広がり、独自なものへと発展していったがゆえに興味深い論を生み出している。(野田努)

河村祐介(監修)『DUB入門』所収、野田努「レゲエとパンクは似たもの同士ではない──UKでのDUB論の展開」には『Bugs On The Wire』を紐解くためのヒントがある。重要な「論」に関してここで触れる余裕はないけど、ビビッとくる感触だけでも伝えたい。ジャマイカとイギリス、レゲエ~ダブとパンクの関連性を知るにはうってつけのテキストなのだ。

スリッツ、ポップ・グループ、パブリック・イメージ・リミテッド等々のバンドとデニス・ボヴェル、エイドリアン・シャーウッド周辺の関わり方を知っていくには、まだまだ、多くの時間が必要なのは間違いない……。

今日は17時までの短縮営業! お時間あればご来店ください。

2025/05/10

5/10 店日誌

今はキングジョーのテキストが救いである。上手くいってることなんか多くない。それどころか、小さな失敗を積み上げるばかりの日々にあって、ジョーさんの言葉から漏れでている何かが、オレの魂を震わせる。(2/15店日誌)

5月10日、土曜日。なんと、このタイミングでキングジョー/松本亀吉『PEACE Piece』が届いてしまった! ジョーさんと遭遇したのは2月13日、大阪市東淀川区のサイクルショップ〈タラウマラ〉だ。その場でZINEを買いサインを入れてもらって、よかったらお店でも! ってお誘いを迷わず了承。そこから約3ヶ月、ついに送られてきた。遅いと言いたいわけじゃない。ちょうどKEN2D SPECIALのミックステープも届くはずだし、いい波がきているのだと思う。

この冊子はキングジョーと松本亀吉の両A面。加齢と格闘しながらも若々しさを失わないキングジョー、淡々と年を重ねながら老け込まない松本亀吉。個性がまったく異なる2人なのだが、不思議と相性がいい。お互いへの信頼感が本全体に漂っている。

気流舎は、空間に付けられた名前であり、資本主義ゲームの中では”店”という役割を担った。しかし僕には、それが長い歳月をかけて多くの人が積み上げてきた文化的な構築物、あるいは意識の集合体だという想いが強くあり、その不可視なものをどうにかしてつかみ取って一冊の本にまとめてみたかった。(ハーポ部長)

ハーポ部長(編著)『本のコミューン』が再入荷。下北沢にあったブックカフェ〈気流舎〉でのイベントを採録、書籍化した約330ページ。レゲエ、ヒッピー、コミューンといった面があり、文学、哲学、人類学に関する論考もある。書物は空間、容れ物として豊かなのだと再認識。

今日も通常営業! 在庫確認、通信販売などのお問い合わせはお気軽に。

2025/05/09

5/9 店日誌

5月9日、金曜日。予約していた『KENANG KENANGAN』という10インチ・レコードを受け取り、針を降ろして仰天した。めちゃくちゃ良いじゃないか。選曲・監修は馬場正道。DJでありスナック、レコード店の店主。さらに、只事じゃないレベルの蒐集家であることはなんとなく知っていたのだが、いやいや参った! こりゃすごい! インドネシアで1950年代制作されたSP盤で編み上げたコンピとのことなのだけど、耳触りは上品。洒脱。異国感を漂わせつつも、濁りのないグッド・ミュージックだけが入ってる。

馬場正道さんには一度だけ遭遇して、言葉を交わしたことがある。長身、長髪で垢抜けた着こなし。フロアに立つだけで目に入る。友人に紹介してもらったのだけれど、いまいち噛み合わず。悪印象だと言いたいわけじゃない。こういうカッコいい人がいるのだな……と驚き、萎縮してしまったのだ。気の利いたことも言えなかったし。

今月に入って本の買取りが続いていて、ドキドキしている。おお! とか、ああ……とか、うわ〜なんて感じで心中穏やかではないのだが、古本屋としてはありがたい。本の買取りに関するお問い合わせ、お声がけはお気軽に。

今日も通常営業。オンライン・ストア〈平凡〉にも動きあり。

2025/05/08

5/8 店日誌

5月8日、木曜日。クレム・ブシェイが手がけた楽曲を収録した『DREAD IN SESSION』に針を降ろすと「Rock Your Baby」が流れ出す! この曲はアップルミュージックには未収録。レコードを買った立場からすれば「やったぜ!」という感じ。歌うのはAnne&Annis Peters(アン&アニス・ピータースって読み方で正しい?)って姉妹デュオだろうか、ガールズ・ヴォイスが軽やかな曲にぴったりだ。続く「Summertime」はドミノ・ジョンソン。溜めの効いたルーツ・レゲエ、声がハスキー。イントロのドラム・インにちょっと驚く。

ボブ・デイヴィス「World In Arms」はいわゆるロック・ステディ。甘く暖かな声とメロディが空気をやわらげる。ブシェイのインストを挟んでのデルロイ・ワシントン「Have You Ever Loved Someone」はタイトルからして直球のメロウ・チューン(オルガンが隠し味)。カール・バートの連曲は上向きのレゲエ、なんとなくジェイコブ・ミラーっぽくもある。

B面のボブ・デイヴィスもやっぱり甘い、暖かい。「Come On Back To Me」「Loving Girl」と続く流れではオルガンとファルセットが気持ちいい。極上のロック・ステディ。ユージン・ポール、カール・バートもゆったりテンポを繋いでいって、ラストのジーン・ロンドはルーツ・レゲエ。マイナー調の渋い曲。

裏面クレジットを紐解いても録音年代の表記なく、詳細はわからないのだけど、おそらく1967年から1974年頃なのだと思う。ロック・ステディからルーツ・レゲエへ変遷していく過程の真っ只中。さらに、この楽曲のいくつかはリー・ペリーの〈ブラック・アーク・スタジオ〉で制作されている。どの曲をペリーが手がけたのか……と想像するのも聴きどころ。

今日明日は15時開店! 古本、音源にいろいろと入荷あり!

2025/05/07

5/7 雑記

さて、肝心のパティ・スミスはどうだったのか。そりゃ尊い。ロバート・メイプルソープ、アレン・ギンズバーグ、ルー・リード、サム・シェパード、トム・ヴァーライン、ハリー・スミス、ウィリアム・バロウズ、ロバート・フランク、ボブ・ディラン、等々。60年代から現代にかけてニューヨークの街に散らばった点を線にできる数少ない人。文化と芸術の結晶みたいな人が目に前にいるってだけで特別なのである。

ただ、自分に書けるのはパティ・スミスを目撃したってことだけだ。賛辞の数々はSNSを検索すれば山ほど見つかる。詩的な賞賛、音楽的な興奮なんかも書いてあると思う。感受性が足りてないのかと不安にもなるが、それ以上も以下もないってのは正直なところ。