2013/03/24

そこに線があった。


ただいま「PEOPLE」の本屋開店に向けての準備中。
お譲り頂いたり、仕入れてきたり、ものすごく沢山の本と出会っている。驚くような本もある。哀しくなったり笑えるものもある。
そのなかでも「ああ!」と思わされるのが線引き本。前に読んだ方が引いた線、勉強の跡がくっきりと残っているもの。
それを見つけた瞬間、ガクッときてその本をどこかに隠したくなる。むむむ、と唸ってみるしかない。
どうして買う前に確認しなかったのか。と自分を責め立てる。後悔の嵐。

だったのだけれど。
最近は一息いれて、その痕跡を楽しむような余裕が出てきた。
一体この人はなにを面白がったのだろう。どんな目的でこの本を読んだのだろう。はたまた年かさは? 性別は? なんて想像するのもけっこう楽しい。
それで酒場でのネタを一本でも仕込めれば、まあ悪くないな。そんな風にも思えてきた。

そんな調子でパラパラとしていたら、また見つけた。
新藤兼人氏による『シナリオの構成』。抑制の効いた、装幀と内容。力のみなぎる一冊だ。
そこにバシッと線があった。ありがたいことにエンピツだ。そして熱がある! 格好良いなあと思うところに引いてある。
そのいくつかを抜いてみる。以下の太字がその部分。

*「とに角、シナリオは足で書くものである。素晴らしい天才もきびしい現実を想像で描きだすわけにはいかない。」

*「いろいろな生活が、いろいろな地方から、いろいろな角度でとりあげられねばならない。」

*「映画の勝負はラスト・シーンできまる。映画は本を読むようにくり返しひろげては進むものではない。
   画面からうったえかけるその時々の感情で終りに近づいて行く
   ラスト・シート(本文ママ)で勝負をつけそこなったら、感銘はひどく薄いものになってくる
   はっきりしたいラスト・シーンができていれば、そこから前へ人物の性格も感情も構成も逆算して行けて映画は明快なものになってくる。」

*「しかし、珍しさばかりではドラマは起らない。それは磨かれた古さに支えられねばならない。

いやはや、どうだろうか。とことん情熱的なのである。
引かれた線を追っていくうちにぐいぐいこの本に引き込まれる。とてつもない力を持った言葉が散らばっている。
ものすごい。この本はすごい本だぞと一人、手に汗を滲ませる。すっかりボクは興奮してしまった。
これ以外にもたくさんの線引き、具体的なメモ書きがある。前の持ち主はきっと映画の勉強をしていたのだろう。
もしかしたら学校の教科書だったのかもしれない。

ああ、ものすごいものと出会ってしまった。
せっかくなのでこの線は消さないでおこうかと思う。

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